国循ICU崩壊

国立循環器病センターのICUの医師が全員退職するそうですね。
理由は「心身ともに疲れ切った」。
ニュースが流れた日、うちの循環器の先生たちが「国循が大変なことになった」と言って騒いでいました。
報道によると同ICUは20床で、年間1100症例以上の患者を受け入れていたとのこと。
それをわずか5人の医師で支えていたと。
親しくして頂いている循環器専門の先輩医師は「そりゃ無理だよね……」と一言。
病院の名前が立派なだけに、盤石な体制が敷かれているのかと思いきや、少数の医師が必死に現場を守っていたという事実。
病院側は「手術件数を減らしたりICUでの管理が不十分になるなど患者に影響を与えるようなことはない」と言っているそうですが、どうでしょう。
いくら他の部署から人員を調達すると言っても、全く問題がないわけがないと思います。
国循の場合は特にひどい状況だったわけですが、その背後には多くの医師が過酷な労働実態におかれているという事実があります。
医学生や研修医達はより楽な科を選ぶことが多くなり、優秀な人材が内科や外科、産婦人科などの科に入らなくなってきました。
(一般に、仕事がきつい科の方が「刑事」訴訟の対象になりやすいということも大いに影響しているでしょう。)
日本は今、医療費を削ろうと必死ですが、実は日本は先進国の中ではかなり医療費が低く抑えられている国です。
GDPベースで考えると、先進国のレベルには全然達していないとのこと。
しかし一方で、日本の医療レベルは今のところ先進国の中でもいいレベルを維持していると考えられます。
いろいろな要素があるとは思いますが、その要素の一つに、医師が少ない人数で必死に現場を守っているという事実があるのではないでしょうか。
無駄があれば削るべきだとは思いますが、人の命を守る仕事をないがしろにしようとしていないか、その点がとても気になります。

「国循ICU崩壊」への9件のフィードバック

  1. 「ICUでの管理が不十分になるなど患者に影響を与えるようなことはない」などと発表する病院側の姿勢が、なるほど辞めたくなる病院だな と思う。この一言で、辞められた先生方の待遇がよろしくなかったことが露呈されている気が……。これが厚労省直轄の病院とは、いやはや畏れ入りました。
    医療費のや診療報酬の分配については、おかしなこと山の如しですよ。月初めに「癌」の診断がついても同月に手術をしちゃうと0円で診断しなければならない、とか、難しくて時間をとられて苦労する診断ほど必然的に経費がかさむので赤字額が大きかったりとか。枚挙に暇がない。
    良心的な医療を提供している病院は、総じて赤字ですね。そして潰れる。パチンコ業界と似ている。
    こんな中、生き残りに大切なのは、ショッピング感覚で来院した患者を「患者様」と呼んで丁重にもてなし、「最善の医療を提供させていただきます」などと、思っていても普通は口に出さないようなことまで敢えて伝えることで信頼を押し売りすること。診療記録を患者様が読みやすいように日本語表記し、できるだけ専門用語を使わずにまとめること。
    要するに、消費者でありお客様であり神様である患者様をお猿さんとして扱うこと。一見、医学の進歩には何の関係も無さそうですが、これは肝要なのです。潰れてしまってはおしまいですから。
    ちなみに、医療費の諸問題については、ここのサイトが分かり易いです → http://www.gaihoren.jp/gaihoren/public/medicalcost/html/tableofcontents.html
    さて、ハジュカチながら、昨日も誤診しました。臨床の先生方には、いつも嘘ばっかりついて申し訳ありません。
    訴えられたら辞めようと思っている私のような能力も経験もないロクでもない遊び人が言えたセリフではないですが、今の日本では、”モノ”に対する対価は支払っても、カタチの無い”技術”に対する評価は著しく低いのかなー と、故 杉浦日向子さんの本を読んでいて思いました。
    一方で、「株価の動きを見る」だとか、「商品売買を仲介する」といった社会的生産性の乏しい業務の報酬は、なぜか大きいのだなー と、内橋克人さんの本を読んでいて思いました。
    長くは続かないでしょうけど、それまでに甘い汁を吸い溜め(?)しておくのは正解かもしれませんね。あたしゃ失敗しました。

  2. 医療費を削れば、単純に考えて医療現場に行くお金が減るわけだから、そこでサービスを受ける患者さん達に悪影響が及ぶのは必至だよね。
    現場にいる人間としては、今の医療にさほど「無駄」があるようには思えないし……。
    まぁ、早期に疾病を見つけるためとか、寝たきり防止のために予算を組んで、その結果医療費が減りました、っていうのなら納得はいくけどね。
    そっちがあまりうまくいっていないのに、医療費だけ削れば単にあくどく儲けてる病院が生き残り、良心的な医療を提供している病院が潰れるだけでしょう。
    いつかイギリスみたいに医療が崩壊して、たくさんの人が被害を被らないと(死なないと)気がつかないのかもね……。

  3. > いつかイギリスみたいに医療が崩壊して、たくさんの人が被害を被らないと(死なないと)
    にょきにょきー。まあそれも、国民の望んだ政治ですから。 あうち

  4. 国循の事態は、いつどの大学病院でおこっても、おかしくない事態だと感じました。
    そして、医師だけでなくナースでも
    おこる事だと思いました。
    実際、ナースが燃え尽きてしまい、
    同病棟で12人同時に退職したという事もありました。
    優秀なナース達が、
    燃え尽きて看護職を離れていくのを度々目にしては、
    本当にもったいないと思ってしまいます。
    医療スタッフの実態調査って、
    ほとんどやられていないそうです。
    労働条件を研究している人が言っていました。
    国は、過酷な労働を見て見ぬふりということです・・・
    このままでは、本当に良い医療従事者が、
    つぶされてしまうと思います。

  5. コメントありがとうございます。
    本当にその通りですよね。
    現在の日本に医療はある意味で、医療従事者の「善意」に支えられている部分が多いように思います。
    これがもし、ビジネスライクな「給料の分しか働きません」という人たちに入れ替わっていったら、日本の医療はかなり後退してしまうでしょう。
    しかも、今の社会情勢は医療従事者を「訴訟を起こされなければいい」「余計なことはしない方がいい」という「ビジネスライク」な方向に駆り立てており、現在のところ、日本の医療の未来はあまり明るくありません。
    このブログのようなメディアを通して、少しでも世論が変わってくれればいいのですが……。

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