大腸カメラ日誌 2009.05.02 大腸カメラ時の麻酔

 前回、当院では「必要に応じて」全身麻酔を施行しています、と書きましたが、実はこの「必要に応じて」という部分が非常に大切だと考えています。
 十分に痛くない大腸カメラの挿入方に習熟してさえいれば、多くの患者さんで麻酔など全くしなくても痛くない検査はできます。
しかし、「効率を重視して」全員に全身麻酔をかけて検査をしている施設が少なくないのも事実。
ただ、その場合、どうしても麻酔からさめるためのリカバリー時間が必要になります。
検査はもう終わっているのに、何時間かベッドに横になっていなくてはいけなくなってしまう、ということもよくあるのです。
人によっては、朝に軽い麻酔薬を使って検査を受けたら、夕方5時まで動けなかった、などということも起きます。
検査代も、麻酔をした分、高くなってしまいます。
麻酔薬そのもののリスクから考えても、やはりできるだけ「必要に応じて」使用するのが正しいあり方と考えます。
 次に、上に述べた「効率を重視して」というのが曲者です。
「効率」とは、回転率です。
すなわち、より短い時間で多くの患者さんの検査をこなそうとするということ。
名人級の医師なら別ですが、通常、短い時間で検査をしようとすれば、ぐいぐいとカメラを押し込んで検査をするということになります。
全身麻酔をしていると痛みの程度が分かりづらくなるため、気づかないうちに無理な挿入をし、腸壁に過大な負荷をかけてしまう可能性があるのです。
しかし、大腸の壁はわずか3mm程度。
無理をすれば破れてしまう可能性があります。
事実、アメリカの大学病院などでは全例全身麻酔をするため、300人に1人くらいの割合で大腸カメラ挿入に伴う穿孔(大腸に穴が開くこと)が起きます。
穿孔してしまえば、たいていは緊急手術ということになります。


 私は「効率」よりも、「自分が受けたいと思える検査を提供する」ということを大事にしています。
たとえ時間がかかっても丁寧な挿入を心がけ、できるだけ患者さんに苦痛とリスクの少ない検査を提供しようと努力しています。
また、それが私の医師としてのアイデンティティーにもなっているような気がします。
 人材派遣会社には「非効率的だ」と言われましたが、常勤の超音波技師さんを雇い、通常よりも長い時間をかけてしっかり検査してもらうようにしたのも、そのひとつの表れかもしれません。
 ただ、そんなアイデンティティーも、技術がなくては成り立ちません。
確かな診断方法を教えてくださった藤沼先生、
確実なポリープ切除法と止血法を教えてくださった掛村先生、
苦痛の少ない挿入法を伝授してくださった佐藤先生には、本当に感謝しております。
まだ東邦大学大橋病院にたまに行かせていただいて、折々にご教授いただいていますが、本当に足を向けて眠れません。
後輩にこの技術を何とかして伝えていくことで、ご恩返しができればと思っています。
大腸カメラ、大腸ポリープの日帰り手術は東京 渋谷ヒラハタクリニック

「大腸カメラ日誌 2009.05.02 大腸カメラ時の麻酔」への2件のフィードバック

  1. そうですね、もちろん、手術で行うような麻酔は、内視鏡では行いません。
    私が申し上げているのは「広義の全身麻酔」と考えてください。
    ドルミカムやホリゾンなどの薬剤で患者さんを鎮静して検査をする、ということがかなり広く行われています。
    (大学病院でしているところもありますし、一般のクリニックでもよくあります。)
    いずれも手術などで行う全身麻酔の「導入」に使われる薬剤ではありますが、意識を消失させる、という意味では全身麻酔と言っていいものと理解しています。

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